【セミナーレポート】AI×GISで解く「売れる立地」の勝利方程式〜機械学習と商圏データで挑む脱・経験則〜
- 開催日時
- 2026年2月6日(金) 14:00
- 開催場所
- 富士ソフト アキバプラザ 6F セミナールーム1

多店舗展開を行う小売・飲食業などの店舗ビジネスにおいて、「次の出店候補地でどれだけの売上が見込めるか」は常に経営の最重要課題です。しかし、いまだに「ベテランの経験と勘」や「従来の重回帰分析」に依存し、複雑化する市場環境とのズレに悩む企業は少なくありません。
本記事では、「MarketAnalyzer™」などの商圏分析ツールを展開されている技研商事インターナショナル株式会社様と、AI×戦略ソリューションを提供する株式会社データインサイトの共催で行われたプロフェッショナル向けセミナーの内容をレポートします。両社が共同開発し、まもなくリリースされる新プロダクト「THE NOVEL」の裏側にある、高度なAI売上予測の構築プロセスと「人とAIの共進化」の哲学に迫ります。
1. AIの限界は、人と超える。「85点」を「100点」にするアプローチ
第1部のセッションは、弊社代表取締役である中西義樹の登壇からスタートしました。中西はみずほ銀行、BCG(ボストン コンサルティング グループ)等を経て同社を設立し、戦略的データ利活用とAI変革のエキスパートとして幅広い業種業態のお客様の変革をサポートしています。
弊社が掲げるビジョンは「人とAIの共進化」です。中西は、 「AIは確かにすごいですが、人の脳の方がはるかにすごいと私たちは考えています。AIに人の脳の代わりをさせたいわけではなく、お互いの得意分野を活かした『適材適所』を作りたいのです」と昨今のAIブームに対して独自の視点を提示しました。
AIは大量の情報を高速に処理し、社会の集合知をもとに「85点」の答えを出すことには長けています。しかし、ビジネスの現場でそれを「100点」の満点に引き上げるのは、現場のプロフェッショナルたちが持つ個別知(経験、ノウハウ、勘)に他なりません。この「人の英知(ビジネス戦略思考)」をAI(データサイエンス)にどう組み込むかが、売上予測を成功させる最大の鍵となります。
2. 脱・経験則。会場アンケートが示す「売上予測」の現在地
続いてAIによる売上予測手法を説明するパートに入り、日本IBMを経て同社を共同創業し、新プロダクト「THE NOVEL」のAIアーキテクトも務めるCOOの山元陸が登壇しました。
山元はセッションの冒頭、会場の参加者に向けて「普段、どのように売上予測をしていますか?」と問いかけました。 その結果、会場の挙手は以下の通りとなりました。
- 重回帰分析を使っている:約30名(圧倒的多数)
- 経験と勘に頼っている:約10名
- 機械学習(AI)を使っている:約5名
この結果に対し山元は、「やはり重回帰分析が一番多く、人間にとって納得性の高いモデルが作りやすい手法です。しかし、店舗数や業態によっては、機械学習のほうが圧倒的にフィットするケースがあります」と述べ、AIを活用した予測の真価について解説を進めました。
3. 「AI」への正しい理解:生成AIの限界と機械学習の分類
「AI(人工知能)」という言葉は、実は1956年のダートマス会議で生まれた古い概念です。しかし、現在ビジネスで使われているAIのアプローチは多岐にわたります。山元は、これらを正しく理解することがAI活用の第一歩だと語りました。
- ルールベース:人間が「土日は+30%、雨の日は-20%」と条件(ルール)を設定し、その通りに計算させる手法。
- 機械学習(教師あり学習):過去の売上、天気、曜日などの「正解データ」を大量に与え、AI自身に「雨かつ土日の場合は+10%になりやすい」といった法則を見つけ出させる手法。売上予測に最も使われます。
- 機械学習(教師なし学習):正解を与えず、学生の勉強時間や出席率などのデータだけを渡し、「真面目タイプ」「やる気なしタイプ」のようにAIにグループ分け(クラスタリング)をさせる手法。
- 強化学習:迷路のゴール(+100点)や壁への衝突(-10点)のように、試行錯誤の「報酬」から最適な行動ルールを学ばせる手法。
ここで山元から 「準備なくAIにデータを丸投げすると、必ず失敗します。特にChatGPTやGeminiなどの生成AIは、文章等のコンテンツ生成には優れていますが、統計分析や精緻な売上予測に直接的に適した技術ではありません」と補足しました。
4. 失敗しないAI売上予測「5つのプロセス」徹底解説
セミナーのメインテーマとして、精度の高い売上予測モデルを構築するための「5つのステップ」が詳細に解説されました。山元は「AIは最初から『勝ち筋』を理解しているわけではありません。前半のビジネス理解やデータ準備の土台なくしてAIを使っても、砂上の楼閣に過ぎません」と強調します。
① ビジネス理解:予測の「土台」と「データリーク」の罠
最も重要なのが最初のプロセスです。売上に何が影響するのかを網羅的に洗い出し、因数分解します。外部要因(周辺人口、競合の距離、天候、駅からの距離など)、店舗キャラクター(店舗面積、席数、駐車場台数など)、店舗オペレーション(営業時間、スタッフ構成など)といった様々な説明変数から売上向上要因のメカニズムを見つけに行くことが重要と主張しました。
ここで陥りがちな罠が「データリーク」です。例えば、「店長の気概が良く、いわゆる名物店長がいると売上が上がる」という仮説があったとします。過去のデータとしては存在しても、いざ「未知の出店候補地」を予測する際、未来の店長の気概など事前に分かるはずがありません。このように、予測時に取得不可能なデータを特徴量(変数のこと)に入れてしまうと、実戦で使えないモデルになってしまいます。
② データ理解・データ準備:機械が理解できる形に「整形」する
手元にあるデータをそのままAIに入れてはいけません。 例えば「営業時間:7:00〜23:00」という文字データは、機械には意味がわかりません。非常に簡単な例として、「営業開始時間:7」「営業終了時間:23」「営業時間数:16」と分割・数値化することで、AIに限らず、初めて機械が処理できるようになります。
また、「都心・郊外・地方」や「駅前・ロードサイド」といったカテゴリデータも、機械が理解できるように「特徴量エンコーディング」という処理を施します。
- One-Hot Encoding:「都心か?(0 or 1)」「郊外か?(0 or 1)」とフラグ分けする。
- Label Encoding:ロードサイド=0、駅前=1、フードコート=3のように数値のラベルを貼る。
- Target Encoding:ロードサイドの平均売上(例:1000万)、駅前の平均売上(例:1500万)といったように、目的変数(売上)の平均値に置き換える手法。特徴量同士が喧嘩(過学習)しないよう設計に細心の注意が必要。
③ モデリング:適切なアルゴリズムへの投入
綺麗に整形されたデータを、LightGBMやXGBoostといった機械学習アルゴリズム(決定木ベースの勾配ブースティングなど)に投入し、モデルを学習させます。
④ 評価・検証:データの「偏り」を防ぎ、精度を測る
モデルが完成しても、すぐに実戦投入してはいけません。AIに学習させるデータと、テスト用の評価データを分割して精度を検証します。
- ホールドアウト法:データを学習用(例:7割)と評価用(例:3割)に分ける手法です。しかし、例えば学習用に「都心の店舗」ばかりが偏って入ってしまうと、郊外の店舗を予測した際に精度が悪化するリスクがある。
- 交差検証法(k分割交差検証):データをk個(例:20個)に分割し、「1個を評価用、残り19個を学習用」とする検証を20回繰り返して平均をとる手法。計算コストはかかりますが、データの偏りを抑えた精緻な検証が可能。
検証時の精度指標(どれくらいズレているか)としては、以下のようなものが用いられます。
- MAE(平均絶対誤差):AIが「100万円」と予測し、実際の売上が「120万円」だった場合、誤差は「20万円」となります。この絶対値の平均をとる、最も直感的な指標です。
- MAPE(平均絶対%誤差):上記のズレをパーセンテージ(例:約16%のズレ)に直したものです。
- RMSE(二乗平均平方根誤差):誤差を二乗してからルートを被せることで、大きなズレに対して強いペナルティを与える指標です。
⑤ 要因分析(SHAP値の活用):ブラックボックス化を防ぐ
AIの弱点である「なぜその予測になったのかわからない」というブラックボックス問題を解決する一助となるのが特徴量の重要度指標であり、その一つとしてSHAP値が挙げられます。
- Global SHAP:モデル全体として、どの項目(例:客席数や商圏人口)を重視しているかのランキングを示します。
- Local SHAP:特定の出店候補地において、「競合が近いからマイナス〇〇万円」「駐車場があるからプラス〇〇万円」といった、個別のプラスマイナス要因を「Beeswarm図(ビースウォーム図)」などで視覚的に提示します。
これにより、現場の担当者は「なぜAIがこの売上を弾き出したのか」を納得感を持って理解し、出店稟議の強力な根拠として活用できるようになります。
5. AIの限界は、現場のプロフェッショナルと超える
「AIを使えば及第点の『85点』には行きますが、『100点』の満点には行きません。生成AIを導入して『期待を大きく超える効果があった』と回答する企業はわずか1%未満です。AIが出した85点の回答を100点に引き上げるのは、皆様が持っている知識、経験、ノウハウなのです。皆様は店舗開発のプロであり、我々はデータ分析のプロです。私たちがタッグを組めば、必ず100点に到達できると信じています」というメッセージを残してセミナーは幕を閉じました。
株式会社データインサイトと技研商事インターナショナルは、単なるツールの提供にとどまらず、プロフェッショナルである企業様とAIを掛け合わせた「共進化」を目指し、出店戦略の策定から現場での運用定着までを一気通貫で伴走支援しています。
