AIによるメディア構築|メディアの立ち上げを「技術中心」から、「コンセプト中心」へ
メディア構築は、いつの間にか“技術の壁に阻まれる業務”に
多くの企業やビジネスパーソンにとって、新しいWebメディアやサービスを立ち上げることは、「開発費や技術的なハードルに阻まれる業務」でした。どれだけ素晴らしいアイデアやコンテンツの構想があっても、要件定義をし、エンジニアを手配し、何ヶ月もかけてコードを書き、テストを繰り返す。莫大なコストと時間がかかるのが“当たり前”の定常構造でした。 しかし実際には、このプロセスの大半は「形にするための作業」に過ぎません。 私たち自身、2026年5月に若手向け経済・ビジネス解説メディア『Deep Dive』を立ち上げる際、従来のやり方であれば、数ヶ月の準備期間と相応の開発予算を覚悟しなければならないところでした。「日経新聞を読んでもピンとこない若手に、ニュースの意味や構造を8つのプロフェッショナルな視点から立体的に届ける」という強いコンセプトがありながらも、それを形にするまでの「技術の壁」が最初のボトルネックになり得たのです。
本来やりたかったのは、“コードを書くこと”ではなく“価値の設計”
もちろん、バグのない美しいサイトを作ることは重要です。しかし本来、メディアを立ち上げる人間がやりたいことは「コードを書くこと」ではありません。 重要なのは、 ユーザーが本当に求めているコンテンツ(視点・分類)は何か どんなデザインや体験なら、スキマ時間にワクワクして読んでもらえるか コンセプトを害さない範囲で、継続可能な運用体制をどう作るか という、ビジネスコンセプトとユーザー体験の設計です。 ところが現実には、多くの現場で「開発要件の整理」や「実装作業」にエネルギーを使い切ってしまいます。私たちもかつてはそうでした。技術的な制約やエンジニアとのコミュニケーションに時間を奪われ、最も重要な「ユーザー視点でのコンテンツ設計」に100%の力を注げない状態になりがちだったのです。
生成AIとClaude Codeをフル活用した「対話型」高速開発
そこで私たちが実践したのが、GPTやClaude、そして「Claude Code」を駆使した、開発作業の完全なAI代替でした。具体的な手順は以下の通りです。
- AIとの壁打ちによるコンセプトと論点の研磨 まずGPTやClaudeに対し、メディアの方向性やターゲット層を伝え、詳細な論点(「なぜ起きたのか」「誰に影響するのか」などの4つの問いや、8つの専門家視点など)を考えさせました。これに対してこちらの考えをぶつけ、全体の方向性として破綻していないか、AIに客観的な意見を出させながらブラッシュアップを重ねました。
- 技術要件の逆算とヒアリング コンセプトが固まった段階で、次に「Claudeに投げる」ことを前提として、必要な技術要件(フロントエンドの構成や画面遷移など)をAI自らにヒアリングさせました。提示された要件を会話ベースで一つずつ埋めていきます。
- Claude Codeによる一気通貫の実装 要件が揃ったら、あとはClaude Code(ターミナル上で動作するAI開発アシスタント)に指示を出し、一気にコードを生成・構築させました。
このプロセスにおいて、私たちがコードを書くことは一切ありませんでした。驚くべきことに、シンプルなメディアであれば、もはや「人間が自力でコードを書く技術」は必要ないという領域に達しているのです。
AI開発を成功させるための「4つの実践ポイント」
この超高速開発を成功させ、理想のメディア『Deep Dive』の形に落とし込むために、私たちが徹底したポイントが4つあります。
- とにかくユーザー視点に徹する 開発が簡単だからといって機能を盛るのではなく、「ユーザーが本当に欲しいものは何か」という視点からブレないこと。
- 定期的に議論をまとめ、コードをシンプルに保つ AIへのリクエストが増えてくると、コードが継ぎ足しになって複雑化(スパゲティ化)しやすくなります。節目ごとに「これまでの議論をまとめ、より分かりやすくシンプルなコードに整理して」とAIに依頼し、構造を綺麗に保ち続けました。
- 誰もが分かる平易な言葉で、イメージを表現する 専門的なIT用語を使う必要はありません。できる限り平易な言葉で「こういう画面にしたい」「このボタンを押したらこう動いてほしい」と言語化・イメージ共有することで、AIとの手戻りを最小限に抑えました。
- 運用コスト(更新性)を見据えた設計 メディアは作った後が本番です。コンテンツの更新にどの程度のコスト(手間)がかかるのかを事前に想定し、コンセプトを害さない範囲で「更新の作業量を減らせる仕組み(AIによる執筆支援の噛み合わせなど)」を最初から計算に入れて構築しました。
変わったのは、開発スピードだけではない(人間の勝負どころ)
このアプローチにより、『Deep Dive』は構想から極めて短期間で形になり、Vercel上にデプロイしてオープンを迎えることができました。 しかし、ここで重要な教訓があります。 「シンプルなメディアならAIだけで作れる」というのは事実ですが、ここからさらに「ユーザーの個人情報を扱う」「ログイン機能を実装する」「決済・課金機能を組み込む」といった、絶対に失敗が許されない、顧客信用に直結するフェーズに移行する場合は話が変わります。
ここから先は、セキュリティやインフラの構造、万が一のバグのリスクを正しく評価できる「技術が分かる人間の目(プロフェッショナル)」を適切に巻き込まなければ、一瞬で顧客の信用を失うリスクを孕んでいます。何でもAIに丸投げすればいいわけではないのです。
AIの本当の価値は、「不条理な技術の壁」を取り払うことにある
今回の事例から見えたAI活用の本当の価値は、アイデアを形にする際の前半戦(プロトタイピングやシンプルメディアの構築)において、人間を「コードを書く」という作業から完全に解放してくれた点にあります。
人間がやるべきことは、どこまでも「ビジネスコンセプトの磨き込み」と「ユーザー視点での目利き」であり、技術はそのビジョンを具現化するための手足(部下)に過ぎなくなりました。
世の中の多くの新規事業やメディアの現場では、今もなお「どう作るか(技術)」に大量の時間と資金が溶けています。AIの本当の価値は、その構造を「何を届けるか(コンセプト)」という本質的な勝負へと変えられることにあるのかもしれません。
『Deep Dive』
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